急に話しかけてきたおばちゃんは何と応えてほしかったのか

以前、大原三千院の商店街を歩いているときに見つけて買ったおいしいポン酢がなくなるということで、ポン酢を買いに行くことになった。しかしポン酢を買うだけのために観光地を歩くのは、このご時世リスクが大きい。いや、それは後付けの言い訳であり、一番の理由は単純にめんどくさかったのだ。だから、別のところで同じポン酢を探すことにした。

同居人は「近くの道の駅とかに行けばあるのでは」と言った。確かにありそうだ。三千院近くの道の駅をグーグルマップで探したが、あるのは「里の駅 大原」だった。僕は道の駅も里の駅も大して変わらないだろうと思い、とりあえず行ってみることにした。

たどり着いた里の駅は、思っていたような「道の駅のちょっとしょぼい感じのやつ」ともまた違う、村人が共同で経営している野菜直売所のようなところだった。食堂もあったが、そっちは見ていない。とりあえず「~の駅」と名前をつけておけば誰か来るだろう、そんなことを企画した人がいたのかもしれないし、僕はまんまとそれに乗せられた。

僕は異国の血が混ざっているため、ぱっと見は外国人だ。しかもその日の僕は、「鹿飛び出し注意」と書かれた、奈良で買ったおみやげのTシャツを着ていた。山里に住んでいる人たちから見ると、観光地好きな外国人のようなイメージを持たれることであろう。人に2度見されることは慣れていたが、その日は店内にいた客の一人につき平均3度見はされていたと思う。それくらい浮いていた。

そして残念ながらポン酢はなかった。特に野菜を買いたいこともなかったが、何も買わずに帰るのはバツが悪いと思ったのか、同居人はかごの中に「タカのツメ」と「豆大福×2」を放り込んだ。うちでタカのツメなんか使ったことは今まで一度もなかったような気もするが、赤いからなんとなく衝動的に買ったのかもしれない。これからは今までより少し辛めの料理が出ることだろう。豆大福のチョイスはよかった。僕は甘いものは好きだ。

レジに並んでいると、前に並んでいたおばちゃんが急に振り返り、「あっちのレジ、空いているんですかねぇ?」と話しかけてきた。僕は、完全に無視をした。目を合わせることもなく、微動だにせず、聞こえなかったことにしたのだ。そもそもコミュ障なので、いきなり知らない人に話しかけられても、全く心の準備ができていない状態で気の利いたコメントを返す自信はなかったし、どう見てもあっちのレジは空いていない。空いてはいないが並んでもいない。つまりレジで客を一人相手している状態だ。「あっちのレジ、空いてるんですかねぇ?」の問いに関しては、正直、見ればその状態はわかると思うので、質問の意図がわからず最適な返答はできなかっただろう。もし何か答えたとしても、「あー、どうなんですかね…?」と何の役にも立たない声を出すだけだ。ソーシャルディスタンスも保ってないこの距離で、無意味な声を知らない人に浴びせるのは避けたい。だから、聞こえなかったことにした。

幸いにも僕は観光好きな外国人のような恰好をしていたので、そのおばちゃんも、「日本語が通じなそうだし、きっと話しかけたことに気付いていないんだな」くらいの辻褄合わせはできただろうし、普段から知らない人に急に話しかけているのであれば、無視されることにも耐性はあるかもしれない。人に話しかけられて無視することは良くないことかもしれないが、質問内容と相手が悪かった。「どこから来たんですか?」くらいならコミュ障の僕もスッと答えられただろう。僕は特に罪悪感を感じることもなく、タカのツメと大福2個をお買い上げし、帰路についた。

帰り道、車を運転しながら、なぜおばちゃんは「あっちのレジ、空いてるんですかねぇ?」と僕に聞いてきたのか、ずっと考えていた。見ればわかることを人に聞いてくる理由として、まずパッと思いつくのは「相当に目が悪い」ということだ。レジ自体は5メートルも離れていないような距離だったが、それでも見えない人は見えない。しかもそれだけ目が見えないとなると、僕の見た目についてもごまかしが聞いていない可能性がある。向こうのレジが空いているかどうか見えないから、後ろの人に聞いたのに無視をされたという、なかなかショッキングな出来事になってしまう。しかし、そのおばちゃんは一人でそこそこスムーズに買い物をしていたので、そこまでに病的に目が見えないということはないだろう。僕はそう言い聞かせ、この仮説を棄却した。

もう一つ思い浮かんだのはこうだ。おばちゃんは、向こうのレジには客が一人しかおらず、誰も並んでいないことを確認していた。一方こっちのレジには人がまだ並んでいる。だからおばちゃんは、できれば向こうのレジに行きたかったのだ。高齢者は、常々「レジを一刻も早く済ませたい」と思っている傾向にある気がする。しかし、誰も向こうのレジに行かないので、勝手に行くことに気まずさを感じた。そして、僕に確認したのだ。同意を求めた。「あっちのレジ、空いてるんですかねぇ?」の問いに対し、僕が瞬時にその意図を理解したうえで「空いてるみたいですね」と答えれば、おばちゃんはあっちのレジに行き、効率よく買い物を済ませられたはずだ。それを僕が無視なんてしたものだから、おばちゃんはもやもやした感情を抱えながら、しかもスムーズに進行できないという地獄を見たのだ。おばちゃん、ごめん。気付いてあげられなくて。

以前、大原三千院でポン酢を買ったお店の別店舗を帰り道で見つけ、無事、ポン酢を買うことができた。「味工房 志野」という調味料専門のお店で、ここのポン酢やドレッシングがすごくおいしいので、よかったら行ってみてほしい。

おしまい

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