スーパーの開店前の行列に並んだ先に見える景色

近所のスーパー。朝の8時55分。

今日も、閉ざされた扉の前で、戦々恐々とした老人たちが数人、扉が開くのを待っている。何もこのスーパーに限った話ではない。この世のあらゆる開店前の店舗では、数人の老人たちが扉が開くのを待っているのだ。

まるで戦場にでも赴くかのような面構えをした彼らは、一体何を狙っているのだろうか。朝イチのセール品?限られた年金の中で少しでも節約するのであれば、セール品が確実に存在する時間に買い物をすることは理にかなっている。もしくは、一番に店に入ったという勲章?老人というハンデを抱えていては日常生活で何か一番になるという事態は少ないだろう。店に一番に入るという勲章は、お手軽かつ、ちょっと頑張らないとクリアできない、ちょうどいいチャレンジなのかもしれない。

とはいえ実際のところはわからない。そこで、私も開店前の数人の行列に並んでみることにした。

朝の8時50分。既に扉の前には、老人が並んでいた。1番に店に入るという勲章を得るには、順番を抜かす必要があるが、もちろんそんなことはしない。

セール品に飛びつくこともできれば避けたい。足腰の弱っている老人たちが我先にとセール品を目指す中、運動不足で体力がないとはいえ、ごつい中年がタックルをかますわけにもいかない。けが人がでてしまっては大変だ。もちろんこのけが人になる可能性がある対象には、私も含まれている。

私は焦る気持ちを抑えながら、できるだけクールに、紳士的に振舞おうと誓った。何も一番になりたいわけでも、セール品をゲットしたいわけでもない。ただ、開店前の行列のその先に見える景色を見たい、それだけなのだ。

8時59分。いよいよ開店だ。店の中から小太りの店員が、なるべく笑顔でいようと心がけているような顔で、こちらに向かって歩いてくる。きっと直前に、朝礼で仕込まれた顔なのだろう。私も昔はコンビニでアルバイトをしていた身だ。心中お察しする。

扉が、開かれる。

私は老人を突き飛ばし1番に店に入り、精肉コーナーへと本気でダッシュした。店員や老人の怒りに満ちた声が浴びせられるが、それどころではない。もしかしたら老人の一人が倒れた末に骨折したかもしれない。だが私には割引された牛肉のほうが大事だった。

アメフトのような素早い切り換えしで野菜コーナーを抜け、約4秒で精肉コーナーに到着。まるでフルマラソンでもしたかのような息切れの中、血眼で割引シールを探した。しかし私はすぐに青ざめることになる。そう、まだ誰も手をつけていないはずの大量の肉パックたちには、割引シールが、まったくついていないのだ。

そんなはずは、ない。だとすると、老人たちが毎日のように並んでいる理由はなんなのだ。やはり一番に店に入るという勲章のためか。いや、もしそうだとすると、一人並んでいる時点で諦めるだろう。私のように他人を突き飛ばしてまで一番を獲る覚悟がある人間を除いては。

ルールを破り暴挙に出たことで、屈強な店員たちが捕えるために駆けつけてくる。もう、どうでもいい・・・。割引もされていない上に、開店前に並ぶ理由すら全くわからなくて絶望に浸る今、抵抗する気力もなかった。

私は店員に取り押さえられる中、かすみゆく視界の中で、他の店員がちょうど今、半額シールを貼ってまわっているのを眺めていた。

シェアしてください!

よかったらフォローしてね↓